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※このストーリーは1年前に動画用に作成していたボツ原稿です。

公開する予定はなかったのですが、取り急ぎ修正した為雑な場面が多いです。
 

本編前の体験版という設定で話が進み、簡潔な学級裁判シーンも含まれています。
文字数の都合上忙しい人向けの学級裁判で、非常に内容が薄いです。
また、今回は本編に登場しないキャラクターがOGとして登場しますが、実際はOGという設定もありません。

以上を踏まえてご覧ください。

 

 


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"超高校級"の研究の一環として、姉妹校として新設された"神威学園"。
政府が実施している特別な奨励制度「ギフテッド制度」に認定され"超高校級"の称号を与えられた学生のみが通うことができると言われている。
そして俺、"神沢伊織"は超高校級として認定され、今この神威学園の校門の前に立っている。
新たな希望、そんな言葉に心を躍らせながら、その学園のその学園の門を潜った。
―突如襲い掛かる眩暈。目の前が真っ暗になり、立っていられない。
こんなところで…俺にはまだ…希望が……希望…?
希望って…何だ…?


……
………
…………!!

俺は急にはっと目を覚ました。

「ここは…どこだ?」

見覚えのない教室の机に座っていた。
そして辺りを見回すが誰もいないようだ…。

「誰もいないのか…?」

突如頭にずきりと痛みが走る。
ここに来た経緯も、ここが何処なのかもわからない。
この状況に俺はただただ混乱するしかなかった。

「…俺は記憶喪失にでもなったのか…?」

頭を押さえながらゆっくりと立ち上がると…
何やら粉のようなものが天井から降って来た。
そしてしばらくすると突如天井が抜けた。

??「うわぁぁあああぁ!!」
神沢「うおおぉおぉ!!?」

…空から女の子が降って来た、まさにその言葉通りだった。
抜けた天井から女の子が落ちてきて、俺に直撃したのだ。

??「いったぁ~…あれ、あなた大丈夫?」
神沢「大丈夫って聞くならまずは俺の上から降りてくれ…」
??「ぅぁ!!ごめん…」

その子は俺から離れると体をぱたぱたと叩いていた。
この状況は何なんだ…
記憶喪失になって、女の子が落ちてくる…
正直ついていけるレベルではない。

??「えっと…あなたは…」

その子はじっと俺をみつめながらしばらく考え込んだ。
突如人差し指を立て、何か閃いたような表情になった。

??「そうだ!神沢くん、だね?」
神沢「えっ…?何で俺の名前を知ってるんだ?」
??「ふっふっふ~!実はあたし、この神威学園のOGなんだよ~!」
神沢「O…G…?ってことは俺たち以外にも誰かいるのか?俺、気づいたらここにいて状況が把握できてないんだよ…」
??「んぁ~?えっとね…OGはあたししかいないんだけど、君とおんなじ"超高校級"の仲間はあと15人いるよ!
  あ、あたしは『幸坂 向日葵(こうさか ひまり)』!超高校級のラッキーガールだよーん!」
神沢「超高校級の…ラッキーガール…?」
幸坂「そう!ラッキーガール!みんなを幸せにするのが夢なんだよね~!…んまぁ、肩書は『幸運』なんだけどね~」

この子が幸運…?ドジで不運…いや、何かと幸運が纏わりついているな…

幸坂「あのね、本題に入るけど今回はあなたたちはこの"神威学園"の体験入学をしなくちゃいけないんだよ!」
神沢「体験入学?」
幸坂「うん。この学園のことをよ~く知ってもらう為の体験入学!そしてあたしはあなたたちの先輩として引率する役目なんだ!そういうことで気を抜いて張り切っていこ~!」
神沢「気を抜くのか張り切るのかどっちかにしろ!」
幸坂「じゃ、まずはこの学園の探索とお友達に挨拶しよ~!」

なんだかマイペースで子供っぽい子だが、本当にOGなのか…?
そんな疑問は胸の内にしまい、幸坂の後をついて行った。

 

―食堂―
俺達は食堂へと足を運んだ。
そこは案外広く、食堂というよりカフェテラスのようなオシャレな内装だった。

幸坂「それじゃ、まずはあそこにいる人に挨拶しよっか!」

幸坂に言われ、そこに立っていた緑髪の凛々しい女性に声を掛けた。

幸坂「やっほ~!あなたも気づいたらここにいたの?」

軽っ!!ノリ軽っ!!俺はツッこむ余裕もなかった。

??「ええ…そうね。気づいたらここにいたわ。貴方達も同じかしら?」
神沢「俺もそうなんだ。こいつは違うみたいだけどな…」
??「どういうことかしら?」
神沢「俺達は"神威学園"の体験入学をしてるらしいんだ、こいつはOGの幸坂。そして俺は超高校級の推理小説家、神沢伊織だ。」
??「私は"超高校級のスナイパー"東矢麗沙よ。依頼とあれば何でも撃ち抜くわ。」
幸坂「100発100中のすごぉいスナイパーだって話題だよねぇ!すご~い!」
東矢「そんな…恐縮よ…兎に角宜しく頼むわね、神沢君、幸坂さん。」
幸坂「よろしくね~!」

東矢との挨拶が終わると、次はその隣に立っていた大きなリボンが特徴の女性に声を掛けた。

??「うん、きみたちもわたしと同じ状況だったんだね~…」
神沢「記憶喪失って随分厄介だよな…自分の名前や身分が判っているだけましかもしれないけど…」
??「そうだね~…でもきっとこれから思い出していくよ!だから頑張ろうね~!あっ、私は"超高校級の手芸部"蘭州結凛だよ~!ハンドメイドならわたしに任せてね~!」
幸坂「こ、こんどぬいぐるみ作ってほしいなっ…!」
蘭州「うん、わかったよ~!」
神沢「お前はこっそり便乗するな!!」

蘭州はどうやら既に東矢と打ち解けているらしく、俺達との会話が終わると楽し気に話していた。
やっぱりこういう状況だからこそ仲間を作ることも大事だよな…

辺りを見回していると、一人の小柄な女性と目が合った。
その子は目が合うなり俺のことをギロリとにらみつけた。

??「ねぇ、アンタ何?人のことジロジロ見てウザいんだけど…」
神沢「悪い…」
??「…急にこんなとこに連れてこられて仲良しごっこしようなんてアホくさ。」
神沢「まぁそう言わずに…」
??「水戸都」
神沢「え?」
水戸「あたしの名前だけど何?悪いけどあたしにはもう関わらないで。」
幸坂「神沢くん、彼女は超高校級の能力を思い出せないみたいなんだ…それでイライラしてるのかも…」
神沢「そうなのか…そりゃそうだよな…なんか悪いことしたかな…」

水戸と名乗る子はかなり不愛想だけど、彼女が何の"超高校級"なのか興味はあるな…!

??「お前!そこのお前!!!女の子をジロジロ見ていたというのは本当か!!!?」
神沢「違う!誤解だ!」
??「ええい現行犯逮捕じゃー!!!!!」

突如背後から寄って来た黒髪の女性は俺を羽交い締めにする。

神沢「痛い痛い痛いギブギブギブ!!!!」
幸坂「あはは!刑事ドラマみたいでおもしろいんだ~!」
神沢「幸坂おまえっ…笑ってないで助けろ!!!」

ようやく解放したと思ったら、その子は突如手帳のようなものを突き付けた。

??「あたしはこういう者だ」
神沢「えーと…"超高校級の刑事"…歩多破朱里…?って!!あの歩多破刑事の!?」
歩多破「そうだ!あたしは泣く子も黙る歩多破刑事の娘!歩多破朱里だ!!!よろしくお願いします!!!!!」

大きな声で深々と一礼し、敬礼をすると歩多破はスタスタとどこかへ消えた。
まるで嵐のような一瞬だった…

幸坂「とりあえずここにいる人たちとは挨拶できたね!次の場所行ってみよ~!」

既に疲れ切った俺をよそに元気な幸坂はるんるんとスキップしながら食堂を出た。
そして俺もその後に続いた。


―教室B―
俺達がいた教室の隣の教室だ。
そこには何人か人がいた。

神沢「お前もここに居たのか?」
??「まぁそんなカンジ?気づいたらここに居てなんも覚えてねぇとかまじヤベェっしょ…アンタも同じなのか?」
神沢「お生憎俺も同じ状況だ…あ、俺は神沢伊織だ。宜しくな」
??「ボクは"超高校級のDJ"五月女琥珀ってんだ。マジヨロ!!伊織っち!」
神沢「何か手がかりがあったら教えてくれ」
五月女「りょ~!伊織っちもシクヨロ~!」

神沢「…ところでさっきから気になってたんだけどアイツは何してるんだ?」

教室のいたるところを触ったり見たりしながらメモを取っている長身の男がいる。

幸坂「なにかメモしてるみたいだよ?声かけたら?」
神沢「いや、あいつはヤバそうな気がする」
??「聞こえておりますよ」
神沢「げっ…」
??「私がただメモを取っているだけとお思いでしょうが、私は周りの情報を常に逃がしませんからね…
  視覚、聴覚、嗅覚、触覚…あらゆる視点から情報を集めております。そして貴方様の名前は神沢伊織君。私も貴方達と同じで記憶喪失でございます。」
神沢「俺と五月女の話まで聞いていたのか…すごいな、お前」
??「私は優れておりますから。あ、申し遅れました私"超高校級のゴシップ記者"三根亘という者にございます。以後お見知りおきを。」
神沢「よろしく…」

三根と名乗る男はそれ以上何も言わず、にやりと笑みを浮かべると教室から出て行った。

俺と幸坂が唖然としていると、突如俺の服を誰かが引っ張った。

??「…飴、持ってない…?」
神沢「飴?!」
??「お腹すいた…」
幸坂「あたしも飴ちゃん切らしちゃってるや…ごめんね…」
??「大丈夫…響も、ごめんなさい…」

やたら大きな体でむすっとした表情の男だった。
だけどしゃべり方は穏やかでどこか子供っぽい。
その男はしばらく無言で俺を見て、何度か瞬きをすると首を傾げた。
そして状況を把握したのか、名前を名乗った。

??「響は、すごい、指揮者!ちょうこうこうきゅう、なんだよ!」
神沢「俺は超高校級の推理小説家の神沢伊織だ!よろしくな!」
鶴丸「えへへ…いおり!よろしくね…!」

少し怖いと思っていたがそうでもないようだ。
鶴丸はにこりと微笑み、こちらに手を振っていた。
ここにいる全員に挨拶をすると、すぐさま幸坂は教室を出ていこうとしていた。

幸坂「んじゃ、次行ってみようか~!」
神沢「だからお前は少しは俺にも配慮しろ!」

 

―図書室―

??「うわああああああん!!!」
神沢「何だ!?」

図書室に入るなり、静寂の場とは思えない大きな鳴き声が響いた。

??「うわあああああん!!おうちに帰りたいよおお!ママの作ったプリャーニクが食べたいにゃ…」
神沢「こ、子供!?」

そこに居たのは見るからに子供…
幸坂と並ぶ程の幼い子だった。

??「お、おまええええ!!!あちしをズビッ…子供っ…うぅ…あちしは強いにゃ…あちしは…ズビッ」
幸坂「あぁ…とりあえず涙と鼻水拭いて~」

幸坂はハンカチを差し出すとその子は涙を拭いた。

??「あちしは"超高校級の"…"天使"!!!!清瀬フェーヤにゃ!!」
神沢「天…使…?…おい幸坂、これお前の妹か何かか?」
幸坂「違うよ!!彼女は"超高校級のスケーター"だよ!すっごいスケート選手なの!」
清瀬「ふっふっふ~!そうにゃ!あちしはすごいにゃ!」

うん、これは十分子供だ。褒めて伸びるタイプだ。
俺は心の中でそう思った。

??「天使、今天使って言いましたね!!!!!!?」

突如こっちへ向かってくるなり、清瀬の手を握った修道服の女性。

??「嗚呼…私の前に現れた天使…これは神様からの贈り物でしょうか…」
清瀬「いやあああ離すにゃああああ」
??「私、この身が廃れようと天使様にお仕えいたします!!」
神沢「ちょっとお前!!清瀬が泡吹いてるぞ!!」
??「あっ…失礼いたしました、天使と聞いて興奮してしまいました…」
清瀬「簡便してほしいにゃ…」
??「私は"超高校級のシスター"、折坂芽唯と申します。神にお仕えしております。」
幸坂「見ただけでわかっちゃうよ~!」
折坂「光栄です。さぁ、貴女も私と信仰しませんか!!?」
神沢「幸坂、逃げるぞ」

折坂と名乗るシスターはどうやらかなり信仰心の強い人みたいだ。
危険を察知した俺は幸坂の手を引いて二人から離れていった。

??「ったく、賑やかなヤローだな…オメェも逃げて来たんだろ?」
神沢「危うく違う道を踏み出すところだったよ…」

どうやらそこにいた探検家じみた格好をした男も、折坂の布教から逃れてきたらしい。

??「あそこで泣いてたガキも手におえなくて困ってたから助かったぜ…」
幸坂「そだね~…フェーヤちゃん、かなり泣いてたもんねぇ」
??「子供と宗教は専門外なもんでな…名乗り遅れたがオレの名前は山戸澪。その歴史に名を刻む"超高校級の考古学者"だ!よろしくな。」
神沢「俺は神沢伊織だ。よろしくな。」
山戸「オレ、オメェの小説メッチャ好きなんだよ。これからも楽しみにしてるぜ!」
神沢「…!ありがとう」

山戸は無言でグッドサインを送ると、忍び足で図書室から出て行った。
俺の小説を好きだと言ってくれる人に出会えたのは初めてだ…
少し恥ずかしいけど嬉しいな…

??「ねえ、君!」
神沢「何だ?」
??「ここにも人がいっぱいいるけど、ここには一体何人いるか知ってるかい?」
幸坂「あたしを抜いたらみんなで16人だよ~!」
??「そ、そんなに…!まだ5人しか挨拶してない!!これじゃあバイトでクビになっちゃう!」
神沢「バイト?」
??「そう、僕のバイト先では全員に挨拶することが必須事項なんだよ!」
神沢「ここはバイトじゃないんだ、もっと気を抜いていいと思うよ」
??「そ、そうかな?じゃあ…今は…あっ!僕は"超高校級のアルバイター"の石戸谷謙信です!よろしくお願いします!」
神沢「俺は神沢伊織だ!よろしくな」
石戸谷「はい!!よろしくお願いします!」
神沢「だから気を抜けって!!!」

真面目なんだな…
石戸谷は俺達に挨拶するとすぐに別の人を探しに行った。

幸坂「あと4人かな?」
神沢「そうだな」
幸坂「よし、いこ~!」

幸坂につっこむ余裕すらなく俺はあとをついていく。

 

―廊下―

??「おいお前…ちょっと来てくれ…」
神沢「どうしたんだ?」
??「あいつなんかヤバくね?壁に向かって一人で話してんだよ…」
神沢「同じところウロウロしながら壁と話してる…うん、ヤバそうだ。」
??「アイツも俺達と同じ仲間なのか…?気味が悪いぜ…」
神沢「…ということはお前も?」
??「だな。気づいたらそこのロッカーにいて状況がわからねぇ。ここに来たらアイツがいて気が狂っちまいそうだ。申し遅れたが俺様は"超高校級の建築家"、樋上康太郎だ。」
神沢「俺は神沢伊織だ。よろしく。」
樋上「フッ、お前さんみたいなまともなヤツがいて安心したぜ…」

思ったが俺が誰かと話してる間って幸坂はあまり介入してこないんだな…
まぁいいんだが…

神沢「アイツ…話しかけた方がいいか?」
幸坂「もちろん」
神沢「あー…だよな、聞いた俺がバカだったよ…」

??「この壁は赤い絵の具じゃ映えなさそうだな…こっちは黄色…うーん…」
神沢「あー、もしもし」
??「ここはバケツごと絵の具を掛けて…おや?君は誰だ?」
神沢「俺は神沢伊織だ。お前も気づいたらここにいたのか?」
??「神沢…神沢伊織…!!!!!神沢先生!!!!!?」
神沢「うわ、いきなりなんだよ!!」
??「好きです、すごくファンなんです!サインください!」
神沢「気持ち悪い!寄るな!!」
??「俺!!!"超高校級の芸術家"の館岡要!先生の作品の表紙を描かせていただいたときはもう光栄で光栄で…!!」
神沢「なるほど、お前が館岡か…先日はどうも。」
館岡「また機会があれば是非描かせてよ!センセイの作品に見合った素敵な絵にするからさ!」
神沢「…ありがとう。でも締め切りは守れよ」

気持ち悪いヤツだと思っていたが秒で懐いた瞬間だった。

幸坂「うん、芸術家は変わり者が多いよね~」
神沢「そうだな…でもあいつの芸術は本物だよ…」
幸坂「へ~、あたし、そういうのわかんないや!」

廊下をうろうろしていて気付いたことが一つ…
2階へ上がるための階段にシャッターが下りていて、2階に上がれないようになっていた。
神沢「あれ…そういえばここって2階には行けないのか?」
幸坂「そだよ~。体験入学では1階フロアだけの探索なんだ~。さ、あと二人!だね~!いこ~!」

 

―保健室―

??「あら、他にも人がいたのね。」
??「私たちだけだと思ってたけど…他にも人がいて安心したよ」
神沢「俺は神沢伊織って言うんだ。お前らも気づいたらここに?」
??「そうね。目を開けたら保健室のベッドだったわ。この子は隣のベッドにいたの。」
??「そういう感じ…私も彼女も"超高校級"でここに来たんだと思うけど…まったく覚えてないんだ…」
神沢「そうか…じゃあここに来て誰にも会っていないのか?」
??「こんな状況で外にでるのは危険よ。」
??「誰か助けが来るまでここにいようって話をしてたところなんだけど、貴方達も同じ状況なんだよね?」
神沢「そうだな…」
??「自己紹介が遅くなったね、私は"超高校級の栄養士"浦崎つぐみ。こっちは"超高校級のデザイナー"の芹田琴子」
芹田「名前くらい自分で言えるわよ。」
神沢「そうか、よろしくな」

これで最後か、と思い挨拶を終えると突如チャイムが鳴り響いた。

『ピンポンパンポーン…えー、これから入学式を行います。至急、体育館へお集まりください』

浦崎「なにこの声…」
芹田「気味が悪いわね…」

学校に見合わないようなダミ声がすると、その場にいた生徒たちがざわついた。
そして幸坂は汗を流して口を開けている。

神沢「幸…坂?」

気になった俺が声を掛けると、幸坂は突然ハッとなって教室を出ようとしていた。

幸坂「あっ!ごめんね!あたし急用を思い出しちゃった…」
神沢「え!?」

そう言うと足早に幸坂はいなくなってしまった。

芹田「…変な子。」
浦崎「ところであの子は何者?」
神沢「俺もよくわかってないけど…この学園のOGらしい。それでこの学園を案内してくれたんだけど…それ以外はよくわからない」
芹田「ふぅん。でも要注意人物ってことで頭に入れておいた方がよさそうね。」
神沢「そうだな…俺達と状況も違ったし…もしかしたらアイツが…いや、今はやめておこう。それより体育館だったな」
浦崎「そうだね。行こう」

俺達は急いで体育館へ向かった。

―体育館―

俺達が体育館へ着いた頃にはもう全員そろっていた。

歩多破「16人、全員揃ったな。」
三根「入学式とやらはいつになったら始まるのでしょうか?私は早く探索をしたいのですが…」
??「むぷぷ、そう焦らないでよ、もう始まるからね」
清瀬「にゃにゃっ!?どこから声がしてるにゃ!?」
??「ここだよ、こーこー!」

突如先ほどの声がしたと思うと、教壇の上にパンダのぬいぐるみが現れた。

神沢「は…?パ…ンダ…?」
樋上「おいおい、ふざけるなよ…俺達はこんな茶番に付き合ってる程暇じゃねぇぞ」
??「ふざけてなんかいないよ。ほらほら、整列して」

なんだかんだ今はこいつに従うしかない、この場に居る全員はそう思ったのか、すぐに列になった。

??「はい、それでは始めましょう。理事長祝辞。」
水戸「意味わかんない」
??「えー、皆さん。"神威学園"への入学おめでとうございます。この良き日に皆様とのコロシアイ学園生活を開始できるなんて…理事長は大変うれしく思います。それでは良き学園生活をお送りください。 理事長パン太郎」

状況をよくわかっていないであろう鶴丸、清瀬、石戸谷、蘭州はパン太郎に拍手をしていた。

歩多破「待て!!!!!!今お前…何て…!」

パン太郎「理事長に向かって"お前"なんてどういう教育受けてきたのかなぁ?歩多破刑事はそんな躾もできないのかな?」
歩多破「テメェ…」
山戸「歩多破落ち着けって…」
折坂「あの、このパンダさんが理事長なのはまだいいとして…なんだか妙な単語が聞こえたのは気のせいでしょうか?」
館岡「"コロシアイ"学園生活…このことかな?」
パン太郎「そう!そうです!この学園ではキサマラでコロシアイをしてもらいます!」
東矢「コロシアイ!?そんな馬鹿なことっ…」
パン太郎「しちゃうんだよなぁ、それが…こうしてる間にももうコロシアイ、起きてるかもよ?」
神沢「何っ!?俺達は16人ちゃんとここに…」
パン太郎「あれ~?神沢クン、もう忘れちゃった?イレギュラーが一人いたじゃ~ん!」
神沢「まさか幸坂が…?」
蘭州「幸坂…さん?って…伊織くんが一緒にいた小さい女の子かな~?」
五月女「そういえばアイツは何者なんだ?」
パン太郎「彼女はキサマラの体験入学をサポートする先輩、ただそれだけだよ…むぷぷ。それじゃ!また裁判場でお会いしましょう!」

そう言うとパン太郎は忽然と姿を消した。

歩多破「クソッ…とりあえずその幸坂とか言うヤツを探すぞ!」

歩多破の合図と共に、全員で捜索を始めた。
そして俺が目を覚ました教室に…

変わり果てた姿の幸坂がいた。

石戸谷「えっ…嘘…?」
水戸「マジで死んでるの?」
歩多破「…この状況じゃ本当に死んでるだろうな…」
鶴丸「…何で…?こんな事、誰が…?」

そう嘆いていると再びパン太郎が姿を現した。

パン太郎「ね、コロシアイはもう起きてたでしょ?」
山戸「ね、じゃねぇ!テメェふざけるのも大概に…」
パン太郎「まぁまぁ、これはまだ体験版だからそんなに怒らないでよ。本番はもっとシンドイんだよ?」
五月女「体験版とか本番とかワケわけんねーこと言ってんじゃねぇ!」
パン太郎「むぷぷ、まぁまぁ。四の五の言わずに。コロシアイが起きたらキサマラは一定時間捜査をして、その後学級裁判を開廷します」
浦崎「学級裁判?」
パン太郎「そう!学級裁判!仲間を殺した"クロ"は誰か?を議論し、キサマラの中から犯人を見つけてもらうのです。秩序を乱したクロはオシオキを受けま…あー、この説明は本編でするからいいか。キサマラはどうせここから出れないし。」
芹田「訳が判らないことばかり言わないで…余計混乱するわ」
パン太郎「とにかく!今は幸坂サンを殺した犯人を捜すだけ!じゃ!」
神沢「ちょっと待て…!」

パン太郎は慌てながら姿を消した。

訳がわからない。
突然の状況。ただただ混乱するばかりであった。

歩多破「とにかく今は捜査することが前提だ。ここはあたしに任せろ!」

歩多破はすぐに現場検証を始めた。

館岡「ねぇ、センセ。ここは捜査といこうよ。俺が助手するからさ。それにここは先生の推理力の見せ場だからね、頑張っていこう!」
神沢「館岡…ありがとう」

―捜査開始―
館岡「ねぇ、まずはこのパン太郎ファイルって奴をチェックしようよ」
神沢「そうだな」

パン太郎ファイル ゼロ
―死亡したのは超高校級の幸運 幸坂 向日葵。
 殺害時刻は午後14時20分頃。
 死体発見現場となったのは、校舎1階の教室A。
 死因は後頭部の外傷で頭蓋骨の陥没骨折による即死。
 それ以外に外傷は見られない。

館岡「後頭部の骨折…痛そうだね、センセ…。」
神沢「そうだな…しかも死亡時刻、ついさっきだな…」
館岡「ねぇ、本当に俺達の中に犯人っているの?死亡推定時刻って俺達は入学式の最中だよね?」
神沢「だよな…」

そういえば言われてみればそうだ…
幸坂の死亡推定時刻は全員体育館にいた…
それなのに犯行が可能なのか…?

三根「失礼。」
館岡「何?俺とセンセの捜査の邪魔しないでくれない?」
三根「邪魔は致しませんよ。神沢クン、貴方様に話を聞きたくてですね。」
神沢「何だ?」
三根「貴方様は幸坂サンと一緒にいましたよね?いつ、お別れになりました?」
神沢「俺達が別れたのは入学式のアナウンスが鳴ってからだ。そこには浦崎と芹田もいたよ」
三根「成程…その後ここへは?」
館岡「ちょっと。先生を疑うつもり?」
三根「だって怪しいのは貴方様しかいませんからね。」
神沢「まぁ俺が疑われるのも仕方ないけど…俺は殺してなんかいない!アリバイだってあるだろ!」
三根「アリバイだけでは容疑は晴れませんよ。」
館岡「待っ…何アイツ、感じ悪ぅ。センセ、あんな奴気にしないでね?」

確かに幸坂に会ったのは俺が最初だし、別れたのも俺が最後だ…
疑われるのも無理はないよな…

鶴丸「いおり、かなめ。来て。これ…」

鶴丸が手招きして俺達を呼び止めたので鶴丸の元へ行った。

神沢「これは…!」

教壇の裏に隠れていた血の付着した鉄球。

鶴丸「これって…凶器…?」
館岡「ねぇ、センセイ。絶対凶器だよね、これ。血がついてるしこれで殴れば頭蓋骨の骨折なんて簡単だよ!」
神沢「そうだな…これが凶器で間違いない、でかしたぞ鶴丸!」
鶴丸「えへへ、お役に立てて…何より」

役に立てたことが嬉しいらしく、鶴丸はすごくにこにこしている。

館岡「ねぇ、そろそろ歩多破刑事の検証の結果も聞きに行こうよ」
神沢「そういえばそうだな。」

館岡に諭され、歩多破の元へ行った。

神沢「歩多破、何か判ったか?」
歩多破「うん。死因や死亡推定時刻はパン太郎ファイル通りで間違いない。そしてここ。いつできた傷かわからないが擦り傷があるだろう」
神沢「これ…あの時だ!」
歩多破「あの時?」
神沢「俺がここで目を覚ました時、ほら上…上から落ちて来たんだよ」
館岡「親方…空から女の子が…!って感じ?」
神沢「そうそう…って違う!!突然天井が抜けて幸坂が落ちて来た、たぶんその時だと思うんだ」
歩多破「なるほどなぁ…じゃあ事件には関係なさそうだな。教室の出入り口は1か所、ここから犯人が入ってきて幸坂君を一撃、としても短時間すぎる。謎が多いな。」
館岡「歩多破刑事でも分からない謎なんて解けるのかな…」

ピンポンパンポーン


『えー、これより学級裁判を行います。至急、玄関ホールへお集まりください。』

神沢「えっ…もう!?何も証拠なんてつかめてないのに…」
館岡「不安だけど、議論の中で導くしかないよね…とりあえず行こう!」

俺達は指定された場所へと向かった。
俺達が一番乗りだった。次々に人が集まってくる。

パン太郎「うん、みんな集まったね。良かった。」
五月女「集まらないとヤベェんだろ?」
パン太郎「まぁね~。さ、始めましょうか!ドッキドキノワクワクの学級裁判を~~!ちなみにホントはこの外は校庭になってるんだけど体験入学ではパッと移動するコマンドがあるからあっという間に裁判場だよ」
三根「本当にやるのでしょうか…?」
蘭州「怖いよ~…」
芹田「弱音はいてないで何とかするしかないわよ。」
歩多破「チッ…いいか君達、くれぐれも慎重に議論するんだぞ!」
神沢「ああ、絶対に…俺達は屈さない…!」

―裁判開廷―
パン太郎「えー、学級裁判のルールは癪の都合上省略します。それでは議論を進めてください。」
樋上「随分適当な進行じゃねぇか」
山戸「ムカツクけど進めるしかねぇな…幸坂を殺したヤツは正直に手挙げろ」
水戸「あんたバカ?普通に考えて殺したヤツが挙手するワケないじゃん」
蘭州「向日葵ちゃんは頭をゴッチンされて死んじゃったんだよね?何でゴッチンされちゃったのかな?」
鶴丸「いおり…きっと、凶器は…教室で見つかった、アレ…だよね?」

『幸坂を殺した凶器…それって鶴丸が見つけたアレだ…!』

神沢「凶器は砲丸だ。」
歩多破「大きさや血が付着していたことから間違いないと思ってる。」
館岡「凶器も分かったし、幸坂さんがどうやって殺されたか議論しようよ?」

 

『そうだな…まずはそこから議論する必要があるな…よし、やってやる…!』

 

石戸谷「犯人はどうやって砲丸を使って幸坂さんを殺したのかな?」
東矢「幸坂さんは即死…犯人は幸坂さんが油断した隙に砲丸で仕留めたのではないかしら…」
五月女「きっと犯人は教室に隠れてて、チャンスが来た時にいきなり襲い掛かったってことっしょ!」
清瀬「違うにゃ!犯人は入口から入るなりひまちゃんを襲って殺したのにゃ!」
館岡「教室には幾つかポイントがあったよね。そこが重要になりそうだね」

『あれ…あいつが言ってること…矛盾してる…!』


神沢「それは違うぞ!!…五月女、あの教室には隠れる場所なんてなかったんだ」
五月女「えっマジ!?そりゃメンゴ!ボク知らなかったよ…」
神沢「俺はあの教室で目が覚めて、幸坂が落ちて来るまで教室を探索したから間違いない!」
歩多破「甘いぞ神沢君!」

 

『えっ…反論された…?だけど俺が調べた感じでは隠れる場所はなかったはず…』

 

歩多破「君は隠れる場所がないと言ったがそれは違うな。幸坂君が落ちて来たという2階の天井、あそこだったら誰にも見られずに身を潜めることができるだろう。
なおかつ幸坂君の様子を伺う事すらできるし凶器を投げることも可能だ!!」
神沢「それは無理だ!天井に上がる為の長さの物が教室には何もない!」
歩多破「教室から行くのが不可能なのはわかってる!2階に行くためには普通に階段を使えばいいだろう!!根本的なことが見えていないなんて君も推理小説家としてまだまだだな!」
神沢「その言葉、斬らせてもらうぞ!!」

神沢「歩多破、階段を使って2階に行くのは不可能だ!だってあそこはシャッターが下りてて2階に行けないようになってたんだ」
歩多破「なっ…そうなのか!?」
館岡「しっかり探索してないなんて…刑事としてまだまだだね」
歩多破「くぅぅう…負けたよ負けた、さすがは神沢君だ。」
浦崎「ちょっといい?」
折坂「どうかしました?」
浦崎「ねぇ、思ったんだけどこの中で一番怪しいのって神沢くんくらいしかいないよね?」
神沢「えっ!?」
三根「ふふ…それ、私も思っていたんですよねぇ…神沢君、貴方様はずっと共に行動を取っていましたしねぇ…それにこの教室のことを掌握していた以上、アリバイを作りながら彼女を殺すための仕掛けだって…ねぇ?」
芹田「やっぱり、貴方が殺したのね。これだから男子は…」
神沢「違う!俺は殺してない!」
清瀬「絶対いおりんにゃ!皆が言うならそうにゃ!」
山戸「まさかオメェが殺すなんてなぁ…」
神沢「だから俺は殺してなんか…」
??「あぁれ?裁判場ってここかなぁ?」
一同「!?」
??「ふぁ~~~もういいかなぁ?あたし死体ごっこ飽きちゃったんだよねぇ」
五月女「で、で、で、で、でで…出た~~~~~!!!!」
蘭州「あれれ~?琥珀くん、泡吹いて気絶しちゃったよ~」
東矢「まったく、騒がしい人ね…ところで貴方、死んだんじゃなかったかしら?」
幸坂「ん~そういう役だから仕方ないよねぇ…これはあくまでも"体験入学"だからね~」
神沢「ずっと引っかかってたけど体験入学って何なんだよ!」
幸坂「そのまんまの意味だよ~!"神威学園"に入学するための下調べってところかなぁ」
パン太郎「ま、そんなカンジっす」
神沢「お前は黙ってろ!」
幸坂「ま、そんなカンジっす」
神沢「お前もノるな!!」
幸坂「えへへ…とりあえず体験入学はこんな感じだよ~!ここでは誰も死なないハッピーな学園生活だったけど、本編はとってもアンラッキーだから…」
神沢「…」
幸坂「そういうことなんだ。さ、学級裁判も閉廷だよ!あとはみんな頑張って!だけどこれだけは言わせてほしいな」

幸坂「コロシアイなんて…しちゃダメだよ」

幸坂がそう言うと、突然裁判場は暗闇に包まれ、"あの時"と同じ眩暈に襲われてそのまま意識が無くなってしまった。

 

ーーーーーーーーー
あー。
ああーー。

教室の机にうつ伏せになる形で俺は目を覚ました。

体験入学編 絶望への招待状―完―

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