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1章 希望は嘘、絶望は真実
--自室--

…目覚めは悪くはなかった。
しっかりと鍵をしていたこともあり、今日は館岡は来ていないようだ。
…別に来なくてもいい。正直一人の方がとても気が楽だ。
それにもしかすると館岡は俺を狙って…いや、そんな不吉なことを考えるのはやめよう。
重たい体を漸く起し、ふと時計に目をやった。
8時20分。
パン太郎の朝のアナウンスからすっかり時間が過ぎている。
とりあえず誰かに会いに行こうと考え、ベッドを降りたのと同じタイミングで部屋のチャイムが鳴った。

神沢「誰だ?」
浦崎「私だけど」

そこにいたのは意外にも浦崎だった。

浦崎「…」
神沢「えっと…どうしたんだ?」
浦崎「朝ごはん、食べた?」
神沢「えっ?」

突然の浦崎の発言に俺は動揺した。
勿論今起きたばかりの俺は朝食等食べていないし、あてもないからだ。

浦崎「…今日から朝のパン太郎のアナウンスの時間にみんなで集まって朝ごはん食べる話…忘れたの?」

あっ…
俺は浦崎に言われて思い出した。
昨晩突如歩多破が提案したことを。

歩多破『皆!少しでもお互いを知る為にも朝食は一緒に食べよう!』

神沢「ごめん…すっかり忘れてた…」
浦崎「…そう。食べたくないなら別に食べなくていいけど」

浦崎の表情は相変わらずだが、明らかに口調が怒っている。

神沢「本当に悪かったって!」
浦崎「…神沢くんの分、小分けしてるから。気が向いたら食べに来て。」

浦崎はそれ以上は何も言わずに俺の前から去った。
彼女の姿が見えなくなると、俺は一人で食堂へと向かった。


--食堂--

不思議な話だが、あんなことを言われた後でも誰かを疑うようなことはしなかった。
性格上なかなか上手く馴染めない人もいるが、それでも全員が協力的だった。
誰一人として殺すことはなく、全員でこの学園から出る。
それが俺達全員の目標にして決意。

…決して疑うわけではない。
疑っているわけではない。だけど…

『コロシアイ』

その言葉が何度も脳裏によぎる。

もしかするとこのご飯にも毒が入っているのではないか…?
じっとおにぎりを見つめる。
おにぎりを持つ手に力が入り、変な汗が体中からにじみ出ている。

恐る恐る口に含もうとすると…

?「いただきー!」

突然俺の手にしていたおにぎりが奪われ、一口で食べられてしまった。

神沢「館岡…」

指をペロリと舐めながら、満面の笑みで館岡はこちらを見た。

館岡「センセが早く食べないのが悪いんだよ!」
神沢「それでも普通人の食おうとしてたもの食うか…?」
館岡「…毒が入ってないか、って思ってたんじゃない?」

まるで心を見透かされているかのような発言に、俺は少し動揺した。

館岡「ま、仕方ないよ!あんなこと言われちゃったんだし、疑心暗鬼になるのもさ!」

相変わらず何を考えているかわからない能天気さに、少しばかり安堵している自分がいた。

館岡「あっ、そうだ!俺大事な事忘れてたや!」

館岡は急にはっとなって立ち上がった。

神沢「大事な事?」
館岡「うん、俺実はDJくんに神沢センセイを連れてくるように言われてたんだ!」
神沢「DJくんって…五月女のことか?」
館岡「そうそう。なんか話があるって言ってたな~」

話…俺は特に話すことはないが何の話だろうか…?
俺は館岡に連れられ、五月女が待っているという体育館へと向かった。


--体育館--

五月女「おっ!要っち!伊織っち!待ってたよ~ん!」
館岡「ごめんごめん!遅くなっちゃった!」

驚くことに、体育館には全員が集まっていた。

五月女「いよ~っし!これで全員だな!」
水戸「あのさ、約束の時間でもないのに全員集めて一体何しようってワケ?大虐殺でもするつもり?」
三根「困りましたねぇ…。私、集会は苦手でございまして…出来るなら手短にお願い申し上げたいのですが…」
芹田「誰かが既に何か企んでるかもしれないって言うのに呑気なのね…」

少なくともこの状況を不満に思ってる人もいるようだ。
そんな文句さえも吹き飛ばすように、五月女は大きな声を上げた。

五月女「こーゆー時だからこそ"一致団結"っしょ!」
浦崎「団結…?」
館岡「なるほど…DJくん、それは名案だと思うけどあまり乗り気じゃない人もいるみたいだよ?」

館岡がそう言い、辺りを見回すと各々距離を置き、目を合わせないようにしていた。
そんなメンバーに対し、五月女は必死になって訴えかける。

五月女「マジでみんな頼むって…ボクは"コロシアイ"なんて絶対にしたくないんだって!」

しかし五月女の声に耳を傾けようとする人はいなかった。
そしてその状況に耐えられなかった山戸は声を荒げた。

山戸「オメェらいい加減にしろ!五月女の言う通りじゃねぇか!コロシアイなんてせずに普通に暮らしてりゃ平穏な学園生活を送れるだろうが!!」
東矢「確かに彼の言う通りね。今のところ互いに殺しあう理由なんてないし、おとなしくしてる方が賢明だと思うわ」

その発言により、徐々にみんなが打ち解けていった。
言い出しっぺの五月女はすごく嬉しそうにしている。

五月女「んだろォ!?ってことでぇ!まずは出口がないかも含めてこの学園をくまなく探索をしようぜぇ!」
鶴丸「うん…ここで暮らすいじょう、施設はあく、してたほうがいいよね…」
折坂「でしたら、数人ずつに分かれてあちらこちら探索してみてはいかがでしょう?その方が効率的でしょうし!」
五月女「そうだな!んじゃ、アンタらテキトーにグル作って好きに探索してちょー!晩飯時になったらまたココに集まってぇ、メシを食いながら報告し合う!こんな工程でヨロってことで!」
水戸「なんかあんたが仕切るのムカつくんだけど」
石戸谷「だけどこうやって誰かがまとめてくれると安心できるね!」
樋上「俺様が仕切ってもよかったんだけどな、そこは譲ってやるのが美しさだからな」
清瀬「それに何かあってもあちしたちの中には刑事さんもいるから大丈夫にゃ!」
歩多破「あたしに任せろ!歩多破の名に懸けて、あんたら全員守ってやらぁ!!」
蘭州「朱里ちゃん、とっても頼りになるね~」

こうして半強引に全員で学園内の探索をすることになった。
俺は一人で食堂を出ようとすると、後ろから誰かに手を引かれた。

歩多破「神沢君、あたしと組まないか?」
神沢「えっ?」

歩多破は真剣な顔で俺を見ていた。

歩多破「お前は推理作家だろう?この手のミステリー、得意そうだからな!刑事のあたしと組めば事件解決も夢じゃないだろう!」
神沢「まぁ…確かにそうだな…でも俺なんかでいいのか?」
歩多破「むしろこの中で一番頼りになりそうなのは君しかいないんだ。な、引き受けてくれるよな、相棒!」
神沢「もう引き受けた前提じゃねぇか…」

俺は強引に歩多破と組むことになった。
どうやら既に歩多破には探索のアテがあるらしい。

歩多破「早い話、あたしは出口を探そうと思ってる」
神沢「出口?」
歩多破「そうだ。あたしらがここに"来た"ということは必ず出入り口が存在しているはずだろう?」
神沢「あぁ…確かに!どこかにあるはずだよな…」
歩多破「さすが相棒!よく分かってる!ということで早速探索がてら出口を探すぞ!」

歩多破ははりきって体育館のドアを開いた。
彼女のテンションの高さと歩幅に置いて行かれつつも、俺は後に続いた。


☆探索パート


--教室B--

手始めに俺と歩多破は俺が目覚めた教室を調査することにした。

神沢「ここ、俺が目覚めた教室だ…」
歩多破「なるほど、神沢君はここで目が覚めたのか」
神沢「ああ、俺は気づいたらこの教室にいたよ。因みにここにいたのは俺と館岡の二人だったな」
歩多破「ということは、あたしらはそれぞれの場所でバラけていたんだな…」
神沢「そういえば歩多破はどこで?」
歩多破「あたしは図書室のロッカーだった」
神沢「ロッカー!?」
歩多破「…まぁそれはいいだろう!それよりも捜査だ、捜査!」

歩多破は顔をふくれながら背を向けた。
教室内を見回すが、窓がないことを除けばいたって普通の教室だ。
窓がない、というよりは鉄板のようなもので窓を封鎖されている。
その為陽が照らずに薄暗く、時間の感覚を失ってしまいそうだ。

神沢「時計は動いているんだな…もはやこの時刻さえ正しいのかは不明だけど」
歩多破「そうだな…こんなに暗いのに10時だなんて目を疑ってしまうな」
歩多破「あと気になるのはあの"カメラ"だな。動いていたとしてあたしらの動きを監視しているのか?」
神沢「監視…嫌な言葉だな…」
歩多破「他は特に気になる点もなく普通の教室なんだがな。神沢君、隣の教室も見てみないか?」
神沢「そうだな、行こう」


--教室A--

教室Bの反対側にある教室A。
そこは先程とは逆の作りになっているものの、内装はほぼ一致していた。

歩多破「なんだ…想像以上に何もなかったな」
神沢「そうだな。多少は変化があると思ってただけに少しガッカリだ」
歩多破「強いて違うというならそこの窓際の席に花が置いてあるくらいだな」
三根「この花は先程私が生けました」
神沢「三根が?」
三根「ええ、なんとなく寂しかったので。」
歩多破「見かけによらずセンチメンタルな心を持っているんだな、お前は」
三根「ふふ、誉め言葉として受け取っておきますね」

三根が置いたという花以外は何も変わりのない教室だった。
その花は蘭州が校庭で見つけた花らしく、なんとなく殺風景だったから飾ったという。
俺と歩多破は鉄板の窓を眺める三根の気を取らないようにそっと教室を後にした。


--食堂--

教室を出ると、そこから近かったのもあり先程朝食を食べた食堂に足を運んだ。

鶴丸「あっ。いおり、あかり。探索、来た?」

食堂では鶴丸がテーブルに座って大量の飴を平らげていた。

神沢「鶴丸、お前もここを探索してたのか?」
鶴丸「うん、響ここ見た。アメちゃんいっぱい、ひとやすみ。」
歩多破「すごい量のアメちゃんだ。ひとつもらってもいいか?」

鶴丸と歩多破が仲良く飴を食べている間、俺は改めて食堂を一望した。

神沢「テラスみたいでオシャレな食堂だよな…」
鶴丸「ここ、ひろい。おいしいごはん、たくさんたべれる、好き」
歩多破「そうだな。広さ的にもあたしら16人で使える場所には勿体ないくらいだ」

俺は歩多破のその言葉に思わず疑問を抱いてしまった。

神沢「…」
歩多破「どうした?神沢君」
神沢「ここって、本当に"俺達16人"の為の施設なのか?」
歩多破「少なくとも"今は"そうだろう。あたしら以外に誰かが隠れているとも思えないしなぁ…」
鶴丸「いおり、他にだれかいる、思う…?」
神沢「いや…そういうわけではなくて…」

俺達だけの施設…
それにしてはスケールがでかすぎないか…?
少しばかり違和感はあったが、確かに16人(とパン太郎達)以上の人が存在する気配もないし、個人の部屋も16室で人数分だ。
やはり考えすぎだろうか…?
ぼーっと考えているうちに歩多破は厨房を捜査したようで、俺の肩を叩いた。

歩多破「神沢君。厨房を見てきたが、大量の食材があること以外は特に変わりはない普通の厨房だったぞ。」
神沢「えっ?」
歩多破「量も種類も尋常じゃないところを見るとそう簡単にここを出れる気がしないな…」
神沢「一体何のために…」
歩多破「あたしはこれはテレビでよくある"サバイバルゲーム"であり"ドキュメント"なんじゃないかと思ってる。
   あたしらは試されていて、この状況下で人を殺さずに皆で仲良くできるかどうかの!!バラエティなんだ!」
神沢「それだったらいいんだけどな…」

歩多破もむちゃくちゃな発想だが嫌いではない。
むしろそうであってほしいと俺も思っている。

歩多破「さ、一通り調べたし特におかしな点もないな!次行くぞ次!」


--購買部--

俺達はそのまま購買部へと向かった。
その中は名前の通りよく見るような普通の購買部だった。
特に変わった物はないが、"パンパンマシーン"と書かれたガチャガチャが設置されている。
そして目の前では五月女が必死でパンパンマシーンを回していて、その様子をパン太郎が動画撮影していた。

五月女「もっかい!!もっかいだけぇ!!!」
パン太郎「しょうがないな~、一回だけよ」
神沢「お前ら何やってんだ…?」

五月女もパン太郎もこちらには気づいておらず、謎の小芝居を続けている。

五月女「で、出た~~~~!!これが伝説の魚…!!!獲ったど~~!!」
パン太郎「パンパカパーン!五月女くん、おめでとうございます!」

パンパンマシーンから出て来た黄金のしゃちほこの置物を手に、五月女は目を輝かせて喜んでいた。
その横で拍手をするパン太郎。

ふと隣を見ると歩多破がすごい顔をして棒立ちしている。
俺も複雑な気持ちになったので何も言わずその場を後にした。


--保健室--

騒がしい購買部を後にした俺達は、隣接していた保健室へと足を運んだ。
隣の五月女の声が微かに聞こえる。
全体的に白で統一された室内は清潔感があり、保健室の中は薬品の匂いがほのかに漂っていた。
ベッドが2台になぜか点滴台等も完備されていて保健室というよりかは病室のようだ。

保健室を一通り捜査し、ふとベッドを見ると水戸がそこですやすやと眠っていた。

歩多破「こんなところでサボりか、水戸君」
水戸「何?あたしは疲れてんの。そういうお説教垂れんのウザい。」
神沢「まぁまぁ…」

歩多破と水戸は何だかあまり仲が良くないようだ…。
安眠を邪魔されたこともあり、明らかに水戸は不機嫌だ。

水戸「…ここ、"毒薬っぽいの"があったから要注意だと思うよ」
神沢「毒薬…!?」
水戸「それ以外は怪しいものなかった。あたしのこと信じてくれるならもうどっか行って。あたしは寝たいの。」

意外にも水戸はしっかりとこの部屋を探索していたようで、気づいた点を告げてくれた。

神沢「ありがとうな、水戸」

お礼を言うと、水戸はムスっとしながら背を向けてシーツを被った。
それ以上の言葉は帰ってこなく、彼女を寝かせる為にも俺達は静かに部屋を後にした。

廊下に出ると、歩多破がしかめっ面をしていた。

歩多破「毒薬か…危険だな」

やはり先程の『毒薬』というワードが気に障っていたらしい。

神沢「そうだな…万が一の為に水戸がいなくなったら調べておいた方がいいな。」
歩多破「もし本当に毒薬だったらまずい。神沢君、夜時間になるまでにまたここに来て対策をするぞ」
神沢「ああ、わかった。他に誰かが気づく前に何とかしなきゃな」


--超高校級の芸術家の研究教室--

廊下で立ち話を終え、保健室に隣接していた教室に貼ってある表札を見た。

神沢「超高校級の芸術家の研究教室…?ってなんだ?」
歩多破「芸術家…と言うからには館岡君の部屋か?」

そう言いながら扉に手を掛けると…

館岡「ダメ!!!!ダメダメ絶対ダメ!」

中から館岡の声が聞こえた。

神沢「館岡、俺だ。入れろ」

扉には鍵が掛かっていて、何度かノックをするが一向に扉を開ける気配はなかった。

館岡「いくら親愛なる神沢センセイでも入れられないよ!!!!俺は未完成の作品は他人に見せたくないんだ!」
神沢「…だそうだ。」
歩多破「ということはここは俗にいう美術室…館岡君の為の教室なんだろうな」
神沢「そうだな。もしかすると他にも同じような教室があるのかもしれないな。」
歩多破「よし、捜索だ。行くぞ神沢君」

潔くその教室の探索を諦め、他にも似たような教室を探すことにした。


--体育館--

既に何度か訪れているが、念のためしっかりと捜査をするべく体育館へとやって来た。
改めてじっくりと見ると普通の体育館に比べてやや天井が高い。
バスケットボールのリングや舞台、体育倉庫も完備されていて特に変わりはない。
体育館は不思議と教室に張られていたような鉄板はなく、澄んだ青空が見渡せる。

樋上「ここは妙に天井が高いな」

樋上はこの高さに興味があるらしく、床から天井を何度も見回していた。

清瀬「こんなに高くてもあちしならひとっとびで華麗にタッチにゃ」

清瀬は自慢げに言っているがそもそも論届くはずがない。
俺は大人だからあえて突っ込まなかった。

神沢「ここは何だか解放感があるな」
歩多破「そうだなぁ…広いし圧迫感もないし、あのヘンテコな鉄板もないしな。…まぁ相変わらずカメラはあるけど」
清瀬「気になってたけどこのカメラって何だにゃ?」
神沢「それが判れば苦労しないんだけどな…」
清瀬「あちしたちの学園生活を誰かが見ているのかにゃ?」
神沢「…!」

『誰かが見ている』…?

樋上「それはねぇだろ…俺達の学園生活って需要あるのか?」
清瀬「何てったってあちしたちは"超高校級"にゃ?もしかすると資料として映像にしているのかもしれないにゃ!」
歩多破「あたしもそう思うんだよな~絶対ドッキリだよな、これ」
樋上「そう言われてみればその気がしてきたぜ。俺も美しく作業しているさまを見てもらわないとな」

さっき歩多破も言っていたけどやはりこのカメラは誰かに見てもらう為に設置しているのか?
資料として録画しているとしても妙な点が多すぎる。
パン太郎が『コロシアイ』という言葉に拘りを持っているのも引っかかる。
…俺が警戒しすぎなだけだろうか?
歩多破の後を付いて行きながら、俺はずっとそんなことばかりを考えていた。


--図書室--

普通の学校の図書室とは似てもつかない程大量の本がずらりと並んでいた。
その本の量の多さは尋常じゃない。出入り口の扉の上にまで本棚が続いている。
本の種類も様々で、漫画から小説、雑誌や資料や文献や新聞等、むしろない物の方が珍しいのではないかと思う程の品揃えだ。
机椅子も完備で、カウンターには蓄音機やコーヒーメーカーも置いてあるのでその場でゆっくり本を読める環境。
控えめに言ってかなり素晴らしい施設で感動している。
俺も暇があれば利用したい程だ。

折坂「ここは素晴らしい…本の数も多いし宗教関連の本も沢山です…!」
神沢「多種様々な本があっていいな、ここ。本好きには堪らないな」
折坂「はい!!ここは聖地ですね!」

折坂もすっかり気に入っているらしく、様々な本と取り出して並べていた。

歩多破「貸出カード…ここでは本の貸し借りもできるんだな。」
神沢「そうなんだな…推理小説でも持って行くか」
歩多破「シャーロックホームズはあたしが読むからダメだ」
神沢「お前も小説読むんだな、意外だ」
歩多破「悪かったな…」

歩多破の機嫌を損ねてしまったが、1冊ずつ気に入った本と手に取り、図書室を後にした。


--超高校級の考古学者の研究教室--

先程の芸術家の研究教室と同様の表札が書いた教室に足を踏み入れた。
その名の通り山戸の為の教室であろう。
そこに入ると沢山の本や資料、そして模型や化石が数多く展示されていた。
そして…

山戸「やべー!すげー!かっけー!!!!!!」

目の前に立ちはだかる大きな恐竜の骨格に山戸は一人興奮していた。

歩多破「かなりでかいな…これ、本物か?」
山戸「たりめーだろうがよ!!この恐竜はな、…」
山戸は目を輝かせてその骨格について熱く語り始めた。

神沢「歩多破、逃げるぞ。」

山戸は話し出すと長いしマニアックだ。
危険を察知した俺は歩多破を引っ張りそのまま逃げた。


--超高校級の栄養士の研究教室--

超高校級の栄養士の研究教室。名前からして判るがここは浦崎の為の教室だ。
中は調理室のようになっていて、綺麗な食器の他に食に関する様々な本が並んでいる。

浦崎「ここ、単なる調理室じゃないんだよ」

俺達に気付いた浦崎は作業していた手を休め、こちらに語りかけてきた。
彼女は既に教室を捜査して、早速活用しているようだ。

神沢「そうなのか…?俺には普通に見えるけど…」
浦崎「めったに出回らないような食材、高級な器具、たくさんの資料やレシピ…色々揃ってるんだ。」
歩多破「なるほど、浦崎君にとっては最高の場所ってことだな」
浦崎「うん。それにパン太郎に頼めばここにない食材も調達してきてくれるし」
歩多破「パン太郎が!?毒とか入ってるんじゃないか!?」
浦崎「大丈夫だよ、私がちゃんと毒見してるから」
神沢「もし本当に毒が入ってたらどうするんだよ!」
浦崎「その時はその時。私は誰かに悪い物を食べさせて体調を壊させたくないから。ただそれだけ。」
神沢「浦崎って本当に逞しいよな…」

前々から思っていたが、歩多破と並ぶくらいに浦崎って頼りになる…
調理の邪魔にならないよう、俺達は一通り部屋を調べてその場を後にした。


--超高校級のスナイパーの研究教室--

ここは東矢の為の教室だ。
種類様々な銃が保管されている。射的場も完備。オマケでスナイパーゲームも配備されている。

蘭州「すご~い!麗沙ちゃん、また記録更新だよ~」
東矢「今日は調子がいいだけよ」

東矢は射的の練習をしていて、その様子を蘭州が見守っていた。

神沢「相変わらず100発100中だな」
東矢「そんなことないわ…私だって外すときは外すのよ?」
歩多破「だけど今も完璧だっただろう!」
蘭州「麗沙ちゃん、すごいよね~♪」
東矢「恐縮だわ…」

他愛ない話をしていながらも、銃に囲まれていると考えると少し恐怖感がこみあげて来た。

神沢「銃…沢山だな…」
東矢「そうね。私が扱っている物も含め、初めて実物を見る物もあるわ。ここまで揃ってるとなるとよほどのコレクターよ」
歩多破「ここの物はお前の私物ではないのか?」
東矢「違うわ。私の物は今持っている銃だけよ」
歩多破「ここの教室って開放してるのか?」
蘭州「一応、鍵はあるんだけど…"建付けが悪くて使えない"みたいだよ~…その代わり"セキュリティ装置"もあるみたいだよ~」
東矢「銃だなんて"コロシアイ"にもってこいだし、私がいない間には責任を持って管理するわ。」
神沢「頼んだぞ、東矢。」
東矢「ええ、任せて頂戴。私だって"コロシアイ"なんて望んでいないもの。」

東矢はそう言いながら新たな銃を手に取り、そのまま射的場へと戻った。
しばらく東矢の射的を見てから次の部屋へと向かった。


--超高校級のデザイナーの研究教室--

芹田「最高にオシャレでいい空間…」

その教室に入ると、芹田が一人で内装をうっとりと眺めていた。
沢山の資料、資材や画材が置いてある。ロココ調のオシャレな内装になっている。
まさに芹田の為の教室である。

神沢「芹…」

彼女の名前を呼ぼうとすると、びくりと肩を上げながらこちらを振り返る。

芹田「かっかっかかか神沢くんに歩多破さん!!!?いつからそこにいるの!!?」
神沢「今だよ今!!!たった今来たところだ!!」
歩多破「大丈夫だ芹田くん。あたしらは何も見てないことにするから、な?」
芹田「うぅ~…もうお嫁に行けないわ…」

どうやら俺達に気付いていなかったらしく、顔を真っ赤にしながら問い詰められた。
歩多破がなんとかあやして機嫌が戻ったところで、この教室のことを聞いた。

芹田「ここ、デザインするのに最高の環境なのよ。」
神沢「なるほどな…デザインしてから制作までできるようになってるんだな。」
歩多破「他にもその人の為の教室があったけど、どの教室もその人にとっては"天国"のような場所だな」
芹田「そうね。もしかするとここって本当は私たちの教養の為の施設なんじゃないかしら?」
神沢「えっ…?」
芹田「"コロシアイ"…なんてのはきっとデマカセよ。ここでみっちり研修する為に、あえてあんな大げさな嘘ついてるんじゃないかしら?」
神沢「本当にそうなのか…?」
芹田「そんなことわからないわよ。でもこれだけ設備が整っているんだもの。そうとしか思えないわ。」

歩多破といい、清瀬といい、芹田といい、どうしてこんなにも前向きなんだ…?
俺達の研修だとしても『コロシアイ』だなんて不謹慎な言葉で縛ることがあるのか…?
とてもモヤモヤするが、考えてもキリがない。
不思議そうに俺を見る歩多破に気付き、はっと我に返った。
しばらく芹田の作業を見て俺達は教室を出た。


--2階廊下--

俺達は一通り2階を探索し終えた。
ふと視線の先には奇妙な光景が広がっていた。

神沢「これはなんだ…?シャッターが下りてるのか…?」

そこにあったのは巨大なシャッター。
もしかするとこの先に出口があるのではないか…?

神沢「ここ…この先には行けないのか…?」
歩多破「きっと何処かにスイッチがあるんじゃないか?」

俺と歩多破がシャッターの周辺をくまなく調べていると…

パン太郎「むぷぷ、このシャッターを上げるスイッチはありませんよ」
歩多破「きゃあっ!!」

突如現れたパン太郎。

神沢「だから何でお前はいつも急に現れるんだよ!!」
パン太郎「呼ばれたからですよ」
神沢・歩多破「呼んでない呼んでない」
パン太郎「ショボ~ン」
歩多破「茶番はいいから教えてくれないか?この先には行けないのか?」
パン太郎「むぷぷ、この先に行きたい?」
神沢「行きたいに決まってるだろ!!」

俺がそうパン太郎に言い寄ると、パン太郎は奇妙な笑みを浮かべた。

パン太郎「だったら、"コロシアイ"をしてください!」
神沢「なっ…」
パン太郎「"コロシアイ"が起きたら、探索できるエリアが拡大されていく仕組みです。じゃ、頑張ってね」
歩多破「あっ、おい!!待て…!」
神沢「アイツ本当何なんだ…訳わからねぇ…」
歩多破「神沢くん、あいつに惑わされたらダメだ。この先に行こうという考えは捨てよう。」
神沢「そうだな…他をあたろう。」

パン太郎は何が何でも俺達にコロシアイをさせたいらしい。
だが俺達は絶対にアイツの口車になんか乗らないんだ…!
開かないシャッターの事は諦め、他の教室を捜査するという目的に戻ることにした。


--超高校級の建築家の研究教室--

ここは樋上の為の教室らしい。
様々な資料や資材が整っていて、作業環境も万全。木材の匂いが漂っている。
作業台の上には美しすぎる設計図と、未完成ながらも美しさの漂う家具が置いてあった。

神沢「樋上って設計図から完成品まで本当に美を追求してるんだな」
歩多破「当の本人があれだもんな」
神沢「これは大勢の人が注目する理由もわかるな」
歩多破「そうだな」

他に教室を見て回ると、そこにはノコギリなどの鋭利な刃物の工具も目に付いた。

歩多破「いくら作業に使うとは言え、危険だな…」
神沢「念には念を、だな…あとで樋上に頼んでそこの鍵付きクローゼットで管理してもらうように頼んでおくか。」


--銭湯--

校庭を少し進むと、そこにはもくもくと湯気の漂っている場所があった。
その煙を辿り、中庭の奥に行くと「ゆ」とのれんの掲げられた小さな建物が建っていた。

神沢「ゆ…?温泉か?」

部屋にも風呂はあったはずだ…疑問に思いながらのれんをくぐると、そこにはほかほかしている石戸谷がいた。

石戸谷「神沢くん!歩多破さん!!温泉だよ!!!温泉!!」
歩多破「本当に温泉か!!!すごいな!!」
神沢「只今男湯、って書いてあるぞ」
パン太郎「そうだよ、ここの温泉は時間制だから気を付けるんだよ!」
神沢「また出た!!!」

気を抜いていると、またもパン太郎が現れた。

神沢「…って!何お前までほかほかしてるんだよ!!!」
パン太郎「いやぁ~だって温泉って最高じゃないっすか!」
歩多破「お前ホントに何でもありだな…」
石戸谷「パン太郎先生と背中の流しあいっこしたんだよ!」
神沢「もう少し警戒しろよ!!!!それよりパン太郎、ここの温泉はどんな温泉なのか説明してくれないか?」
パン太郎「それではこの温泉についてお話しましょう。えー、当学園では、個室のお風呂じゃ満足しない方向けに温泉を設けました!」
パン太郎「この温泉は天然温泉で、湯加減も最高の温度に設定してます。時間帯で男子が入れる時間、女子が入れる時間に分けてるからね!」
パン太郎「周辺には防犯カメラ完備で、覗き対策もばっちりだから安心してくださいね。因みに覗きはハチの巣だから気を付けてね~」
神沢「普通に最高じゃないか?」
歩多破「部屋の風呂より断然こっちだな」
石戸谷「うん、本当にいいお湯だったよ!疲れてた体も一気にリフレッシュ出来ちゃった!」

あとでみんなにも教えてやろう。
俺達はなぜか石戸谷と一緒に牛乳を飲み、その場を後にした。

その後も二人で探索を続けたが、特に変わったものは見つからなかった。
増しては出口等到底見つかるはずもなく。
…校舎と校庭とこんなにも広いはずなのに、どうしてこんなにも行ける場所が限られているのだろうか。
それに研究教室も一部の生徒のものしかない。
やはり先程のシャッターの先に何かまだ見ていない場所があるのかもしれないな…

探索をしているうちにすっかりと日が暮れ、そのまま食堂へと戻り夜の集合を待つことにした。

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--食堂--

すっかり夜になり、約束の時間が近くなるにつれて人が次々に集まってくる。
浦崎の手料理が厨房から運び込まれ、テーブルが豪華に飾られる。
香ばしく良い匂いが食堂中に漂っていた。

神沢「このにおいだけでもご飯が進みそうだな…」
歩多破「だよなぁ♪浦崎の料理って味だけじゃなくて香り、見た目に加えて栄養バランスまで考えてるんだからすごいよな!」
神沢「お前いつの間に浦崎の料理食べたんだ!?」
歩多破「あー…昨日の夜実は腹が減って…ウマいカツ丼作ってくれって頼んだら…さ☆」
神沢「ずるいぞ!!ってかカツ丼かよ!!」
歩多破「カツ丼をバカにするな!」

そんな他愛ない話をしているうちに、全員が席に座っていた。

蘭州「つぐみちゃんの料理、おいしそうだよ~」
東矢「彩りも素敵ね…参考にしたいわ」
浦崎「そんな恐縮だよ…」
山戸「く~!オレもハラペコだ!食っていいか?」
清瀬「ダメにゃ!ちゃんといただきますしてからにゃ!」
折坂「夕食のお祈りも忘れずに行いましょう!」
石戸谷「えっと…どうすればいいのかな?」
樋上「石戸谷くん、別にしなくてもいいんだぜ?」
鶴丸「みやこ、おなか、鳴ってる」
水戸「なっ…べ、別に…鳴ってないし…」
芹田「私も聞いたわよ、水戸さん」
三根「ふむ…後でこの食事風景の記事を書きましょう」

全員が揃うととても賑やかで、なかなか進むことも進まない。
シビレを切らした五月女が、大げさに音を立てて両手を合わせた。
その様子を見て、皆も真似して両手を合わせた。

五月女「そんじゃ、食材とつぐみっちに感謝を込めて!いただきま~~す!」
みんな「「いただきます」」

全員で合掌し、料理を嗜む。
…ウマい。ウマすぎる。
箸が止まらず、気づけば完食してしまっていた。

浦崎「おかわりはあるからゆっくり噛んで食べて…」

そんな浦崎の言葉なんて聞かずにあちらこちらから「おかわり!」という声が上がる。

こうしてみんなでわいわいとご飯を食べているうちは、自分たちの置かれた状況など忘れてしまう。
みんなが笑顔で、ごく普通の学園生活のようで楽しい。
…ずっとこんな幸せな生活が続けばいいな。
俺は心の中でずっとそう思い続けていた。

樋上「…で?肝心の報告会はよ?」

一足先に食事を終えた樋上が爪楊枝を加えながら全員に問いかけた。

五月女「あ、そうだった~ん!メシに夢中で忘れてた~てへぺろ☆」
水戸「てへぺろじゃないし」

肝心な事だが、みんなすっかり忘れてしまっていた。
発表のタイミングが掴めず、キョロキョロしていると三根が無言で手を上げた。

三根「では私から箇条書きで報告よろしいですか?」

三根はサッと懐からメモを取り出し、淡々と読み上げる。

三根「全室カメラ、モニター有。唯一ない場所、温泉更衣室と浴槽。
凶器のある場所、スナイパーの研究教室、建築家の研究教室、栄養士の研究教室、厨房。」
水戸「そういや保健室に怪しい薬もあった。なんか毒薬っぽいの」
歩多破「保健室の薬についてはあとであたしと神沢君が調べておく。他の凶器については各自の部屋の主が責任を持って監視してほしい。」
東矢「任せて頂戴」
樋上「バッチリ管理するぜ」
浦崎「包丁は常にケースにしまっておくね」
折坂「一つ気になったのですが温泉とは…?」
石戸谷「あのね、校舎裏に温泉があるんだよ!すごく気持ちいいから皆も是非見に行ってほしい!!」
清瀬「にゃにゃ!?ケンちゃん抜け駆けにゃ?!」
石戸谷「ご、ごめん!!!先にみんなに教えるべきだったよね…」
芹田「別に構わないわ。あとで場所教えてくれる?」
山戸「他に何か気づいた事とかあったヤツはいねぇか?」
神沢「俺は2階の廊下に奇妙なシャッターを見つけたよ」
歩多破「でもその先は行けないみたいだ…」
五月女「いやいやそれ怪しすぎっしょ!絶対その先何かあるっしょ!」
神沢「それがその先に行くには"コロシアイ"をしろってパン太郎が言ってたんだ」
五月女「…」
三根「逆に、コロシアイをすれば脱出に近付くということではないですか?」
山戸「ふざけんじゃねぇぞ!オレ達はコロシアイなんてしないって約束しただろうが!」
蘭州「う~ん…だったら、その先に行くことは諦めないといけないね~…」
歩多破「この話はもう辞めよう。他に報告は?」
鶴丸「食堂、いろんな食材お菓子、いっぱいあった。種類、量、すごくいっぱい。たべきれないくらい。」
東矢「全体的に私たちの趣味を知り尽くしたような物が配備されているわね。食材にしろ書物にしろ日用品にしろ」
三根「まるで私たちのことを知り尽くしているかのようで大変不気味ですね」
清瀬「もしかしてパン太郎はあちし達のストーカーかにゃ!?」
館岡「あ、そうだ。中庭の奥に赤い扉があったんだけど、あれって何なんだろうね?」
折坂「鍵も掛かってて開かなかったです…正直あまり近づきたくない雰囲気でした」
水戸「じゃあそっから出れるカンジじゃないわけ?」
芹田「きっとここは出口じゃないわ」

大体意見が出そろったものの、誰一人として出口を見つけた人はいなかった。

山戸「誰も出口は見つけてねぇんだな」
歩多破「まぁ…そうだな…」

得られる情報が特になく、場の空気が沈んでいたところに山戸は立ち上がった。

山戸「オレ、思ったんだけどよ。地上から出れねぇなら地下から出りゃいいんじゃねぇか?」

そのむちゃくちゃな発想に、誰もが驚きを隠せなかった。

五月女「地下!?いやいや、澪っちさすがにムリがあるっしょ!」
三根「成程。理論的にはありかもしれませんが少々非現実的ではありませんか?」
山戸「るせぇ!!やってみなきゃわかんねぇだろうが!!」
折坂「やってみる、とは言っても…うーん…上手くいくんですかね?」
山戸「誰かがあのパンダの言う事真に受けて殺しでもしてみろ!後に引けねえだろうが!!何事もやってみなきゃわかんねぇだろ!だからオレはやる!」
清瀬「さすが熱血バカだにゃ!」
歩多破「暑苦しいだけの脳筋バカだが偶にはいい事言うな」
山戸「誰がバカだ清瀬、歩多破!!!後で覚えてろよッ!!!」
石戸谷「あの…!だったら僕も手伝うよ!!力仕事なら得意だし!」
鶴丸「響も手伝う。響、穴掘り、する。」
三根「あまり期待はしておりませんが…私も一刻も早く外に出たいので任せました。」

少々無理はある提案だが、出口を探すことにみんなは次々に賛成した。

樋上「おいおい…待てよ…」

次の目標ができた、と思っていたが乗り気でなかった樋上が声を上げた。

芹田「どうかしたの?」
樋上「冷静に考えろよ。この状況で"外に出たい"と思うことが罠なんじゃねぇのか?」
館岡「うーん…確かにコタローも一理あるかも。出口見つけたとこでただで帰れるとも思えないし…」
山戸「けどよォ、んなこた行動してみねぇとわからねえだろうがよ!!」
樋上「あんた確信はあんのか?」
山戸「そ、それは…わかんねぇけど…」
樋上「俺は別にここの生活に不満はないぜ。ウマい飯も食えて良い環境で作業ができてユニークな仲間もいる。何かデメリットがあるか?」

殺伐とした空気の中で、出たい派出たくない派の意見が飛び交う。
その中でも樋上の言葉は間違っていない。
外に出る必要なんてもしかするとないのかもしれない。
誰もが出ないという意見に心が動き出そうとしたとき…

ドンッ

鈍い音が響き、ざわついていた部屋に静寂が訪れた。

三根「貴方様はそうでしょうが、私は違いますよ」
浦崎「どういうこと?貴方は今の生活が不満なの?」
三根「ええ、不満ですよ。貴方様は特別な教室があるかもしれませんが、この中の数名分しかありません。当然部屋のない人間はある物を羨み、妬むかもしれません」
蘭州「あっ、そういえばわたしもお部屋はないよ~」
水戸「…あたしとかそもそも才能もわかんないし」
樋上「数人だけとかあるはずがないだろう。さっき神沢くんが言ってたみたいにシャッターの先に部屋があるかもしんねぇぞ」
神沢「だからシャッターの先は行けないって言っただろ…」
樋上「正直全員今の生活に満足してんじゃねぇのか?さっきまで楽しくメシ食ったじゃねぇか」
三根「…」
芹田「ねぇ、どうしてさっきから黙ってるの?」
三根「…さっきから聞いてればウジウジウジウジ…!」
神沢「み、三根!?」

三根は先程から黙っていたが、とうとう痺れを切らしたようだ。

三根「こんなところに閉じこもって何のスクープがあるんですか!?えぇ??
 この1分1秒の間に世界はいろんな出来事であふれかえってるんですよ!こんな箱の中の世界気が狂いそうで仕方ない!!!!」

今までに見たことない程歪んだ顔で、唾を飛ばしながらが狂ったかのように言葉を発していた。
いつものようなきちんとした態度で凛々しい姿の三根が想像できないほど、醜いものであった。
彼の怒りと興奮は収まる様子はなく、しばらく三根と樋上の口論は続いた。
誰しもが唖然として見ているだけで、口を挟めないでいた。

石戸谷「もう…やめて…」

だが石戸谷だけは違った。
誰よりも正義感の強い彼は、三根と樋上の間に入り込み、二人を静止した。

石戸谷「ここで争ってたらパン太郎の思う壺だよ…それこそ"コロシアイ"の原因になったらどうするの…?」

そう言うと二人はぴたりと言い争いをやめた。

三根「申し訳ありません。私としたことが少し取り乱しました」
樋上「俺こそ悪かったな。自分のことしか考えちゃいなかったぜ」
館岡「二人とも悪くないよ。悪いのはこの状況。イライラするのも仕方ないさ…」
五月女「と、とりあえずさ。やっぱ出口だけは探してみようぜ?もしかしたら出口以外のモンが見つかるかもよん?」
清瀬「そうだにゃ!あちしもまだ探索はした方がいいと思うにゃ!」
三根「もしも本当に出口がなかった場合には…外に出るという選択肢は諦めます…」
山戸「まずは行動あるのみだ!出口が見つかればラッキーだしなけりゃまた地道に探索すりゃいいしな!」
東矢「そうね。じゃあ地下の探索は山戸くんたちに任せたわ。」

…少々意見が割れて不安も感じたが、最終的には和解し、次の目標ができて少しだけ安堵した。
その後は他愛ない雑談が続き、夜時間を告げるアナウンスと共に各自部屋へと戻ることになった。

五月女「…なぁ、伊織っち。」

個室に入ろうとしたとき、近くにいた五月女がこっそりと俺に話しかけて来た。

神沢「何だ、五月女」
五月女「…あんまりこういうことは言いたくないんだけどさ…やっぱ"コロシアイ"しなきゃ何も進展ないんじゃないかなって」
神沢「五月女…?」
五月女「あんたが言ってたシャッターのことを聞いて思ったのさ。澪っちははりきってたけど、出口はやっぱシャッターの先にしかないんじゃないかってさ」
神沢「パン太郎が冗談で"コロシアイ"しなきゃ開かないって言っただけかもしれないぞ。真に受けるなよ…」
五月女「そうだけど…そうだけどさぁ…!康太郎っちが言ってたことは間違いじゃないって思うんだ。ここから出たい気持ちがいけないんじゃないかって…」
神沢「五月女、どうしたんだよお前…おかしいぞ…」
五月女「怖いんだ…」
神沢「えっ?」
五月女「怖いんだ、ボクは…このまま事が進んでみんなの笑顔がなくなるんじゃないか、楽しい日々が終わるんじゃないかって思うと…」

五月女の声は震えていた。
いつもおちゃらけている彼らしからぬ表情に俺は戸惑った。

神沢「五月女。まだ希望はある」
五月女「伊織っち…」
神沢「そういうことは、完全に詰み状態になってから言うもんだろ」

例え嘘でも、確信がなくても…今は五月女を慰めて安心させることが重要だ。

神沢「安心しろ、みんなお前の味方だ」
五月女「…そうだね、ボクの考えすぎだ…伊織っちに相談したらちょっと気分落ち着いた。マジ感謝!」

気持ちが落ち着いたのか、五月女はにこりと微笑み部屋に戻っていった。
俺は五月女の姿が見えなくなったのを確認し、部屋へと入った。
そのまま俺はベッドへと倒れ込んだ。
今日は一日中歩き回っていたから体がすっかりと疲れていた。
先程の五月女の言葉がふと頭をよぎる。

本当は希望なんかないんじゃないか。
本当に"コロシアイ"でしか前に進めないんじゃないか。

そんなことはもう薄っすらと感じていた。
この先に絶望があるなんて思いたくないから。
ずっとこの楽しい日々を続けていたいから。
その現実を受け入れず、考えず、過ごすしかない。

考えれば考えるほどネガティブになってしまいそうだ。
俺はシャワーを浴びてから何も考えずに目をつぶった。
そしてすぐに深い眠りへとついた。

--翌朝--

目が覚めた時刻は朝食の時間より少し早かったが、支度をしてすぐに食堂へと向かった。

歩多破「やぁやぁおはよう神沢君!今日は遅刻せずに来れたようだなぁ!」
神沢「昨日は忘れてたんだよ!」

まだ時間になっていないのに、既にほとんどのメンバーが集まっていた。
ご飯はまだ出来上がっていないようで、席で雑談をしながら待っているようだ。

三根「おはようございます神沢クン。大型犬の穴掘り隊は10時になったら行動開始みたいですよ。」
神沢「そうか…俺は力仕事は苦手だからあいつらに任せておくよ…」
東矢「因みに朝の5時から準備してるみたいよ」
神沢「そんな早朝から!?気合入りすぎだろ…」
蘭州「善は急げ、って言ってたよ~」
水戸「ほんとバカ。」
五月女「あいつらのこともいいけどよぉ!ボクお腹ペコペコで背中とくっついちゃいそうだよん!」
浦崎「丁度今ご飯ができたよ。」
樋上「本当か?早速いただこうぜ。」

アナウンスと共に合掌をして食事を始めた。
そこに少し遅れて館岡がやって来た。

館岡「あらあら。みなさんお揃いで。」
芹田「館岡くん、遅刻よ!」
館岡「ごめんごめん、俺朝苦手なんだよなぁ~。っていうか遅刻は俺だけじゃないよ」
清瀬「うぅ…」
折坂「天使ちゃんは天使だからいいんですぅ!」
館岡「贔屓は良くないよ!」

…いつも通り何もなく、平和な朝だ。
その愉快な光景に少しだけ幸せを噛みしめながら食事を済ませた。
各自食べ終わると食堂を後にし、俺もタイミングを見て部屋へと戻った。

--自室--
…さて、少し時間があるが今日は何をしよう。
誰かと一緒に過ごして時間を潰そう。

to be continued...

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